本紙では田瓶市で8~15歳の少年少女が突然昏睡状態に陥る奇病を報じた。最初の症例から1か月が経つが未だ原因や解消の糸口はつかめておらず、少年少女たちはベッドに横たわったままである。当初8人いた罹患者は2名増えて現在は10名となっている。取材班はそのうちの一人であるF・Aさん(12)のご家族から話を伺うことができた。
F・Aさんは田瓶中央病院の個室に入院している。窓からは真殿山が望める角部屋の真っ白なベッドで静かに眠っていた。言われなければ昏睡状態にある少女とは思えない、安らかで健康的な風貌をしていた。母親のM・Aさん(42)は「こうやって毎日手を握りに来ています。その手は元気にしていたころそのままで、今にも娘が起きあがって朝ご飯を食べ始めるような気がしてなりません。病院の先生にはいろいろと尽力いただいています。今できることは一刻も早く目覚めてくれるよう祈ることだけです」と述べた。枕元には笑顔を咲かせるF・Aさんの写真が飾られている。まんだら燈籠祭りの時のもので、今年も子供囃子に参加すべく和太鼓を練習していたそうだ。
寝たきりにもかかわらず全く衰えが見えないのがこの奇病に共通する事象である。通常昏睡状態にある患者は筋肉や皮膚の衰える、爪や髪の毛が伸びるといった現象が観測されるが、この患者は発症時点で時が止まったかのように変化が見られない。最近の検査結果では患者はレム睡眠に近い状況にあることが分かっているが直接の治療法確立には至っていないという。田瓶市で発生している未成年が昏睡状態に陥る奇病は近隣の市では事例が見られず、同市でのみ発生している事象との見方が強まっている。専門家は毒物や有害伝播の可能性も考慮して、田瓶市全域に水道を供給する山野辺水道の水質調査や放射線濃度の測定に乗り出した。